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[ 119] 連載:インターネット事件簿
[引用サイト]  http://internet.watch.impress.co.jp/static/column/jiken/2004/07/07/

インターネットが社会の基盤インフラとなりつつある一方、アナログ社会にはなかった新たな危険や落とし穴も増え続けている。この連載では、IT化が進む中で起こるさまざまな事件を、元全国紙記者が独自の取材によりお伝えします。(編集部)
Winny摘発作戦における京都府警の捜査手法が、徐々に明らかになってきている。今回の事件捜査の内部事情を知るある司法当局関係者は、筆者の取材に応じて次のように話した。
「Winnyの摘発は各都道府県の警察がかねてから狙っていたが、開発者が作り上げていた匿名化の仕組みは思ったよりも強固で、警察の技官の持っている技術力では歯が立たなかった。京都府警ハイテク犯罪対策室は約40人の捜査員を擁しており、うち10人がWinny摘発のために1個班を結成し、専従捜査チームとして投入された。」
「専従班はさまざまな手法にトライしたが、いずれもうまくいかなかった。暗号を解読するのではなく、もっと警察的な手法も検討された。たとえばある人物がWinnyを使っているという情報があれば、その人物がネットに接続しているタイミングと違法ファイルがWinnnyネットワーク上に流出したタイミングを合わせ、傍証を固めていくといったものだ。だがこうした方法では、その人物が違法物を送信可能状態にしているという直接的な証拠を作ることができず、公判維持は難しいと考えられた。」
「WinnyBBSで放流告知をしていた男性をピックアップし、その男性が告知していたノードに京都府警本部内のパソコンにインストールしたWinnyを接続させた。そして実際に放流された映画のファイルをダウンロードし、直接的な証拠とした。非常に明快な捜査手法だった。」
京都府警ハイテク犯罪対策室のパソコンから男性のノードに接続する際は、ファイアウォールの設定を変更して男性のIPアドレスだけを通し、他のWinnyノードからのパケットはブロックするようにしたのだという。これによって、男性のパソコンと京都府警のパソコンは1対1で接続され、男性が放流した映画「ビューティフルマインド」などのファイルは京都府警が見事にキャッチすることができたのである。
警察庁は「捜査書類が外部に漏れるなど前代未聞」と強いショックを受け、早急に流出した情報を回収するよう両警察に命じた。だがピュアP2PであるWinnyネットワークにはサーバーも存在せず、いったん流れ出た情報を回収するのは不可能に近い。だが面目を非常に重んじる組織である警察にとって、内部資料が漏洩した状況を放置するというのは耐え難いことだった。窮しきった警察が頼ったのは、セキュリティ企業のネットエージェントだった。
3:Winnyネットワーク上に流れているファイルごとに、誰がそのファイルをアップロードしているのかを調べる。
この中で警察が注目したのは、3の機能である。この機能を使えば、誰が流出した捜査書類をアップロードしているのかを突き止めることができる。警察はWinnyの膨大なパケットを調べ上げて捜査書類ファイルのパケットを突き止め、そしてひとりずつ送信者をリストアップしていくつもりなのだという。
Winnyネットワーク上で流れているファイルを削除することはできないが、少なくとも意図的に特定のファイルをアップロードさせている者を特定することはできる。それらの者に対し、ひとりずつアップロード中止を要請していけば、いずれWinnyネットワークにはそのファイルは流れなくなる――そう考えたのだ。
実際、ネットエージェントの杉浦社長は「京都府警や北海道警から、Winny解析システムの引き合いはきている」と話している。
警察は、強制的かつ高圧的な権力機構と、そして大量の人員を動員できる組織力を持っている。それらのパワーを駆使すれば、確かに不可能ではないかもしれない。警察という組織は、膨大な労力のかかる「回収作業」をやるだけの実行力と意志を持ち合わせているのだ。
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。東京・神楽坂で犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。

 

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